今年のアカデミー賞をとったことで、ようやく日本の配給会社が宣伝に力入れ始めた感じがしないでもないコチラの作品、凄まじい映画だったとしか言いようがない映画でした。
配給会社もアメリカでもかなりのインパクトを与えていることと、しかもこの深い内容、下らないハリウッド映画を宣伝している暇があるなら、なんでコチラの宣伝にもっと力を割いてくれてなかったかと思うのは私だけでしょうか?
【ストーリー】狩りをしていたルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は、死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シュガー(ハビエル・バルデム)に追われることになる。事態を察知した保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、2人の行方を追い始めるが……。(シネマトゥディ)
偶然マフィアのお金を手にしそのお金をもって逃亡する男、それを追う二人の殺し屋、事件を見守る保安官といった登場人物が織りなすドラマでサスペンスと思われがちですが、そういうサスペンス的な意味ではハッキリした答えを出さずに予想を裏切るラストに人によっては唖然とする人、何が言いたいか分けわからないという人いるかもしれません。
しかし、そんな人たちをも、分け分からないながらも惹きつけてしまうパワーに満ちた作品でした。
とにかく映画において表面的に描かれてない部分にある内容が深い!
物語自身が明確な答えも出してないこともあり、人によって 怪演しているバビエル・バルデム演じるシガーが何を表現しているかを解釈が異なり、それぞれの人の中でまた違った答えを出していくそんな楽しみ方を出来ます。
事件を見守る保安官、欲の為に道を踏み外しどんどん深沼にはまっていく男、男を破滅に追いやっていく存在というと、ストーリー紹介だけを読むとコーエン兄弟が前に作った「ファーゴ」を連想する人も多いのではないでしょうか?
しかし事件を見守る保安官がファーゴが妊婦で胎内に未来を抱えた人物だったのに比べコチラは引退を目前にし時代や社会に諦めを感じている老年の男性それによって、かなり物語の意味が変わってきています。
ファーゴが人間の愚かさや弱さといったものを切なくコミカルに描きながらそういったどうしようもなさをも何処か同じ人間と受け入れた愛情のある視点で描いていたのに比べ、コチラは必然的・偶発的・不条理と様々な形で登場人物に降りかかる死を哲学的な醒めた視線で描いています。
善悪といった事関係なく、殺し屋シガーが動くことで発生する死。
そこにハッキリいって深い意味もなく、殺し屋であるシガーは狂気という熱意もなく彼の法則に従って殺しを進めていきます。
その様子はハッキリとした殺害のシーンは少ないのに関わらず精神的に観ている人に恐怖を与えていきます。
そんなシガーを ベル保安官は、ゴーストという自分の理解を超えた得体の知れない存在と感じ恐怖を覚えます。
その事で一見現代(といっても舞台は1980年で少し前ですが)社会という歪んだ社会が生み出した狂気のような印象も与えるのですが、私は善悪も時代も超えてしまった不条理な凶事を象徴しているように感じました。
ベル保安官は、そういう良識に欠け理解を超えた事件の数々に、何とも言えない無力感と空しさを感じ今自分が住んでいる国に自分のような老人の居場所すらないと思っています。
そんなベルに叔父であるエリスは、そんな不条理な凶事は昔からあり、人はそれを受け入れて生きていくしかないと促します。
そしてラスト, ベル保安官が、自分のような居場所のない国となった場所にも、不条理さに満ちた出来事と、父のような良識ある存在が導いた道も同時に存在することに気付き、未来への希望を示唆した形で終わっていきます。
とはいえ主人公であるベル保安官は決して精神的に完全に救われるわけでもなく、依然不条理な死を与え続ける存在は生き続けることでなんとも言えない余韻を残し観客に映画が何を言わんとしているのかを思案させ、心の中で「ノーカントリー」という映画が続いていくのを感じました。
ハビエル・バルデム演じる殺し屋アントン・シガーの怪演が一番取り囃される本作ですが、その怪演をも自然に包有し死も欲もささやかな愛をも超越してしまっているこの映画自身が怪物だと思います。
コチラの作品どうか 皆さんもみて、そして感じてもらいたいです。
【オオブタさんの一言】一見言いたい事が伝わりにくい内容に関わらず、グイグイと観客を惹きつけるパワーのある作品だった。



監督・製作・脚本 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
出演 トミー・リー・ジョーンズ
ハビエル・バルデム
ジョシュ・ブローリン
ウディ・ハレルソン
ケリー・マクドナルド
ギャレット・ディラハント
テス・ハーパー
バリー・コービン


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この記事に対するコメント
はらやんさんへ
あら お恥ずかしいです!
はらやんさんのように 常に穏やかで上品なトーンで感想を書きたいのに、どうも文章が感情的にしまって恥ずかしいです。
でもこの映画はみて、「これは!!づ凄い!」と引き込まれてついつい力はいってしまいました。
この作品ってストーリーそのものより、映画の中で語られている事の意味をくみとりそして考えさせれてしまいますよね。
そして観ている間だけでなく観終わった後にもじわじわと心にのこっています。
凄い映画でしたよね~
こんばんは
コブタさん、こんばんは!
熱が入った記事ですね!
>自分の理解を超えた得体の知れない存在と感じ恐怖を覚えます
エドが感じた恐怖は、今までのアメリカというものが崩れていくという不安感によるものでしょう。
ベトナム以来、全く異なったルールで動く人間が増えていき、80年代はアメリカという国自体も自信を失っていく。
自信喪失をしている古いアメリカがそのままOLD MENなのかもしれません。
今再びアメリカは自信を失いかけているわけで、そんなときにこういう映画が作られたということもおもしろいですよね。
SGA屋伍一さんへ
なるほど、そのような解釈もあるのですね~
コチラの作品アメリカの背景も含めて考えると色々感んじるものがありますよね~
いやいや私もかなり皮肉れていますよ~。
それなりの人生は歩んでいますし ピュア ピュアのままなかなかいけまMせんよね~
SGA屋伍一の視線って私は好きですよ!面白い角度で鋭く観ていらっしゃるので、勉強になります(^^)
おはやうございます
コブタさんはあの言葉を「未来への希望」と解釈されたんですね。なるほど
わたしは「父」というのはインディアンたちを迫害した先祖のことを言っていて、自分にもそうした先祖たちやシガーのような血を欲する傾向があることに、ベルが気づいてしまったのでは・・・なんてひねくった解釈をしておりましたよ(笑)
理由はベルさんの顔がなんか怯えてみえたことと、話の中に出てくる「牛」というのがポスターの不気味なアレを連想させたからです
でも個人的にはコブタさんのような健康的な解釈の方が好きです。自分って根が暗えよなーと改めて感じました(笑)
シャーロットさんへ
シャーロットさんにとっては 耳大事ですものね~
なのでこういう映画はそういう意味でもいいですよね!
コチラの作品、他のブロガーさんからの評判も大旨いいようです!
唐突なラストに驚かれた方も多いみたいですが、やはりそれだけのモノがこの作品にありましたものね~
私は今年の映画早くも、年間ベストムービー上位決定です(^^)
こんにちは♪
絶賛ですね!
こういうピリッとした緊張感、好きです。何より音楽がないのが一番気に入っていて(笑)
最近の映画はうるさいのが多すぎで辟易していたところもあったんですよ;
そうそう、保安官の嘆き…いい視点な描き方だと思うのですが、やはり大方ハビエルさんに目がいってしまうような感じもありますかね・・・
原題のままの邦題だったらまだ内包するテーマ性を受け取りやすいのでは?なんて思いつつ・・・ノーカントリーってどういう事?って実は疑問でしたが、原題を知るとそこでやっと理解できたものでした;
嘆く姿にしんみりとしながらも、個人的にはあのラストにグッときたのですよ。唐突な終り方する映画なんてたくさんある中で、本作はまだ私の中ではすごく理解できる終わり方だったのですが、世間的にはイマイチなんでしょうか?いえ、最近あまり人様のところにジャンプしてないもんで;笑
swallow tail さんへ
いえいえ、私の駄文にそんな勿体ない言葉をかけていただき恐縮です。
コーエン兄弟っていつも根底に愛があるんですよね~
だからこそ生まれる 何とも言えないほろ苦さや切なさが出てくるものが多いような気がします。
モスがお金を持ち逃げしたもの殺人鬼と恐怖の中戦ったのも奥さんの為、そして保安官を最後救っているのも奥さんなんですよね、そういったささやかな愛が、両極の結果呼ぶ所もこの作品の面白い所なのでしょうね~
萌え~
コブタさん、こんばんは。
春の超話題作、やっと観賞できました。
コブタさんの感想を見てなんてすばらしい文章なのだろう!と感嘆しちゃいましたよ!!
>その怪演をも自然に包有し死も欲も
ささやかな愛をも
>超越してしまっているこの映画自身が怪物だと思います。
なんてすばらしい視点なんでしょっ!
ダーキーな部分にばかり目が行ってしまいがちなんですけど、
数少ない愛情や生をもこの作品で見出していらっしゃるなんて。
コブタさん、相当な切れ者ですな・・・
なななさんへ
あら、、にゃんこさん ホテルのロビーとか 最後叔父さんのお家に一杯とか、けっこういたんですよ~
たしかに、、シガーさんが恐くてそこまで見れなかったのも分かります><
逆に私は、猫でやっと心に救いをもらったので覚えているのでしょうね~
なんか 保安官の存在が人によって評価が別れているのも面白いですよね。
私は事件に関わりながらちょっと離れた視点でみているベルさん、それこそがこの映画において自分たちの視点を代表していて、彼がいたからこそ物語に入りやすくなっているように感じました。
こんばんわー
コブタさん♪
にゃんこなんていました?
もうぜんっぜん気付きませんでした。
それほどこの映画の恐怖感にやられていたんだと思います。
なるほど、コブタさんの保安官さんについての見解、深いですね。
私は彼の存在がどうしても引っかかってしまいまして。
そこでなーんか面白いんだけどな・・・う~~~ってなってしまいました。
もう一度観たら色々見方が変わりそうなのですが、シガーさんにはあんまし会いたくないです(泣
ノラネコさんへ ジグソーさんへ
ノラネコさんへ
今年は早くも年間ベストムービーを選出するのに悩んでしまう作品が多くて困りますよね(嬉しい悩みですが)
今回はコーエン兄弟突き抜けてしまって、インパクト強く心に焼き付いたしまいましたよね~
本当に凄い映画でした!
ジグソーさんへ
本当にシガーだけではなく映画全体から目離せませんでした。
また登場人物それぞれが細やかな演技をするもので、それを逃したくないというのもあるのですが、私も魅入ってしまいました。
本当に映画史上伝説となる殺人鬼がまた登場しましたね
どうも!
恥ずかしながらコーエン兄弟作品は初めてだったんですが、とても好きな映画でした。
とにかく見せ方が巧いなと思いました。
見せない所と見せる所があったりで。
そして尋常じゃない緊迫感の作り方もうまいなと思いましたね。
シガーが映る度に『次は何を仕出かすんだ』と落ち着けなかったですよね。
こんばんは
いや凄い映画でしたね。
先月の「アメリカンギャングスター」で、早くも今年のベスト映画に出会ってしまったかなと思ってたんですが、これは輪をかけて凄い。
コーエン兄弟の映画は昔から好きなんですが、ここしばらくはイマイチ突き抜けない作品が続いてただけに、余計にインパクトがありました。
となひょうさんへ 睦月 さんへ
となひょうさんへ
なかなか悩まれているようですね~
意図とかはくみ取れたのですが、私はどの視点でこの作品を書こうか悩んでしまいました。
役者の演技からテーマを語るのか、脚本からいくのか、素晴らしい部分が多すぎて迷いました。
私も時間をおいて、また少しづつ書き直していくかもしれません。
睦月 さんへ
悩まれている方おおいですよね!
あのラストで呆然とした方も多いみたいですし。
私もくみ取れはしたのですが、記事かくのには悩んでしまいました!
素晴らしい部分が多すぎて何処をメインにかくか、、
殺人鬼シガーの表現することが、他の方と若干違っているようで、そういう見解の違いも楽しんでいたりします。
現代的な悪意ではなく、遙か昔からある人間に不条理に訪れる悲惨な死に私はみてしまいました。
そういう違いも面白くて、ブロガーさんたちの記事を楽しく読ませてもらっています
こんにちわ
ホントに凄まじい映画でした。
この物語の見解の仕方に戸惑う方を
結構お見受けしますが・・・
私にはかなりストレートに伝わって
くるものがあった物語です。
さまざまな見方が出来る作品
ですけれど、人間&現代社会の
ダークサイドをここまで明確に
浮き彫りにした作品として、大変
秀逸な1作だったと感じます。
おおおおお、満点だ
こんにちは。
いやぁ、何とも言えない静かな迫力に満ちた作品でしたねー
何を汲み取れば良かったんだろう
わからないままレビューは書いてしまいましたが。
一晩、寝かせても何か悶々としています。
ラストの保安官の夢の話。
少数意見でもいいから、自分なりに解釈してみたかったです。
まさかあそこで終わると思っていなくて。幾分、ボーっとしていたかもしれないです。
時間を作れれば、もう1度ジックリ鑑賞したいなぁと思うんだけど。
どうかなぁぁぁぁ。
motti さんへ
おおお mottiさんも観られんですね~
本当に凄い映画でしたよね~
どこが凄いのかを、どう素晴らしいかをどの視点で感想かくかも悩んでしまいました。
とにかく人には「観て」という感じしかないですよね~
コブタさんこんにちは。
満点ですね!僕も同じく!
コーエンの最高傑作「ファーゴ」再びって感じの感動感激で鑑賞しました。
コブタさんと同じく僕も、グイグイ引き込まれる展開、ハードボイルド感、熟練して尚輝く作品全体としてのインディペンデント感に納得でした!